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ワイナリー巡り:アンリ・ジロー(フランス/シャンパーニュ)

中世から有名な銘醸地だったシャンパーニュ地方のアイ村に2018年10月に訪問し、この地に拠点を置くメゾン、アンリ・ジローを伺いました。

貴族たちに愛され幻のシャンパーニュとされてきたメゾン

アンリ・ジローについて

アンリ・ジローは1625年に創業者のフランソワ・エマールがブドウ畑を購入したのがメゾンの始まりです。20世紀初頭に、アンリ・ジローの父レオンがエマール家の娘と結婚したのがメゾン名の由来となりました。

現在まで12代続く長い歴史のある小さなメゾンです。

イギリスやモナコの貴族たちに愛飲され、幻のシャンパーニュとも称されて来ました。

アンリ・ジローのワイン作り

アンリ・ジローの一番の特徴は樽使いの追求です。

樽はシャンパーニュ地方アルゴンヌの森の木を始め、テロワールを意識した小樽を使って醸造し、ワインを作ります。

シャンパンの作り方は、まずベースとなるワインを作り、ワインをブレンドしてから瓶詰めし、密閉状態にします。発酵により二酸化炭素が発生しますが、密閉されているため、二酸化炭素が逃げられず、ワインに溶け込むことで発泡性ワインが出来上がります。

規模の大きなメゾンを中心に、醸造は大樽やステンレススチールを使う事は少なくありません。一方アンリ・ジローでは、ベースワインの醸造に小樽を使っています。容器自体が高価ですし、樽が馴染むのに時間もかかりますが、それ以上に味わいを最大限に引き出すことを追求しているのでしょう。

また、テラコッタ製の卵型タンクや大きなアンフォラも醸造に使われています。

テラコッタ製容器やアンフォラは、小さな気孔があるので、ゆっくりと空気が出入りします。これにより容器の中でゆっくりと酸化が進み、風味に複雑性のあるワインが生まれます。

ちなみにアンフォラというのは、初期のワイン作りに使われた陶器の壺です。歴史的文献によると、ワインはジョージア(旧称:グルジア)で7000~5000年前に醸造されていたとする記録が残っています。初期のワイン作りでは、アンフォラを地中に埋めて、その中に潰したぶどうを入れ自然発酵させてワインを作っていました。

訪問記

予約について

アンリ・ジローに関して調べていた時「見学できるのは業界関係者のみ」とするサイトがありましたが、たぶんそれは誤りです。私は業界関係者ではありませんが、見学もできましたし試飲もさせていただきました。

「予約なしでも入れる」という情報もありましたが、せっかく行って断られたら無念ですし、私はどうしてもアンリ・ジローは訪問したかったので公式HP からメールでアポを入れておきました。

訪問について

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

エペルネからタクシーで10~15分。アイ村にあるアンリ・ジローに到着しました。入り口は解放されておらず、インターフォンを使って門を開けてもらう必要があります。
(出る時も同じで、メゾンの人に開門のボタンを押してもらわないと開きません)

タクシーの運転手さんが取り次いでくれて敷地内に入れました。入り口にはモダンアートのような「G」マーク。お洒落です。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

少し待っていると、本日案内をしてくださる担当の方がいらっしゃいました。アポを入れた時点で英語での案内を希望していたので、英語で挨拶&案内をしてくださいました。こちらの担当者さんはとても流暢な英語を話されるので、とてもよく理解できました。

入り口を抜けるとすぐに試飲スペースがありますが、まずはカーブ見学をするので、さらに奥にあるカーブへと進みます。

ワイナリー見学

まず通されたのがこちらの空間。なんかとってもかっこいいと思いませんか?ワイナリー版ベンチャー企業みたい、と感じました。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

壁にはアンリ・ジローの理念(フィロソフィー)が掲げられています。

Ne rien s’interdire, ne s’obliger à rien, faire du bon vin naturellement.

何も禁止せず、何も強制せず、良いワインを自然に造る

「naturellement=自然」という言葉は、アンリ・ジローにとって非常に重要なキーワードのようで、ツアー中にも何度も「私たちのフィロソフィーである自然」という言葉を聞きました。

偉大な自然があり、ヒトの仕事はその中からより良いものを選ぶ事なんだけど、その選択にはとても強いこだわりがあって、こだわりがあるから極上のシャンパーニュが生まれる。そんな風に感じました。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

理念の下にある大きな丸い物体が、テラコッタ製卵型タンクです。人が一人すっぽりと入りそうなくらいの大きさです。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

上の写真は、ワイン発祥の地ジョージアから持ってきたアンフォラです。

アンリ・ジローでは最高のシャンパーニュを作る為に熱心な研究が行なわれてきましたし、現在も行なっています。その中の一つにアンフォラがあります。アンリ・ジローはワインの原点に戻ってみようと考え、アンフォラを使ったワイン作りをすることにしたそうです。

テラコッタ型卵タンクもアンフォラも、容器の中にワインを入れると、非常にゆったりとした自然な流れで容器内を移動します。その自然なスピードがとてもワインに良いのだとか。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

上の写真は、一番奥にあるのがイタリア・トスカーナのテラコッタを使ったアンフォラ。写真の右側にある灰色の容器はコンクリート製です。

コンクリート製の容器は、テラコッタやアンフォラと違い、空気が入らない不活性容器です。ワインが酸素との接触しないので、フレッシュな味わいのワインとなります。

アンリ・ジローは樽のテロワールにもこだわります。異なる森から伐採されたオークで作られた樽を使って、ワイン作りをしています。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

樽には一つ一つ、どの森のオークかが明記されているんです。
「そちらはアルゴンヌ森の樽で、味にこういう変化を与えて、こちらはなんとか森で・・・」という説明は、残念ながら失念してしまいました。

これまで「樽がどの森から来た」とか言う作り手さんにお会いした事が無かったので、樽のテロワールにまでこだわるアンリ・ジローの姿勢はとても新鮮でした。しかも、樽のテロワールがワインの熟成に味の変化を与えることも初めて知り、ワインの奥深さを改めて感じました。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

真ん中に置いてあるこの木はアルゴンヌ森のオーク。この大きさの木材から樽になるのはほんの1/4だけ。残りの部分は家具などに使われるのだそうです。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

この大きな機械は圧搾機です。

「果汁は通常、一番絞りから始まり2番~3番までしか区別をしないのですが、アンリ・ジローでは5段階に分けています。こうする事で絞り汁がより細かく分かれます。一番絞りは、より良い一番絞りと2番絞りに近い一番絞りとに分けます。量は限られてしまいますが、より良い一番絞りで最高のシャンパーニュを作れるようになるのです」とご説明いただきました。

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

テイスティング

エスプリ・ナチュール(Esprit NATURE)

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1本目はスタンダードのエスプリ・ナチュールです。

セパージュは80%ピノ・ノワール&20%シャルドネ。アルゴンヌ製木樽とテラコッタ製卵型タンクで醸造し、2年の樽熟成を経て作られています。色は薄いイエロー。フレッシュさと熟成感の両方が感じられます。香りはフレッシュで桃や洋ナシのフルーティな香りの中に、バニラや白胡椒のニュアンスが感じられます。ピノ・ノワール主体のシャンパンらしく、豊潤さと軽やかなタンニンが印象的です。

フュ ド シェーヌ マルチ ヴィンテージ MV12(Fut de Chene Grand Cru MV12)

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

2本目はフュ ド シェーヌ マルチ ヴィンテージ MV12です。「MV」はモルト・ヴィンテージ。「12」は2012年のヴィンテージという意味だそう。

通常シャンパンは、栓を覆う針金(ミュズレ)を使ってコルクを押さえていますが、フュ ド シェーヌはミュズレを使っていません。

代わりにアグラフという大型クリップを瓶の首の張り出し部分に引っ掛けて留めています。

Henri Giraud

開栓前の状態はこちら。分かりますか?

アグラフを外す専用の器具が同梱されているので、それを使って取り外してから、コルクを抜きます。

Henri Giraud

アイ村で収穫されたピノ・ノワール70%とシャルドネ30%。樽のみで伝統的な製造方法で作られています。マロラクティック発酵を最低6ヶ月行なっています。

このシャンパーニュにはとても感動しました。

「5~10分ごとのドラマティック・エボリューション(劇的な変化)を楽しんで下さい」と言って注がれたのですが、最初はバナナ、アプリコット、キャラメル。そして5分後。バナナのニュアンスは青いバナナのようになり、他にはマンゴー。さらに5分後。すごく美味しい!非常に複雑になっていて、私のテイスティング能力では表現できないほど、刻一刻と表情が変わって行くのです。花っぽい感じもあるけれど、樽の効いた美味しい白ワインのよう。とにかく美味しいのです。

ワイン評論家のロバート・パーカー氏はアンリ・ジローについてこうコメントしています。

ほとんど人に知られることのないこのドメーヌは、最高のシャンパン・ハウスだろう。このハウスのシャンパンは、むしろ蜂蜜味のあるブルゴーニュ・ブランに近い。

ロゼ “ダム・ジャンヌ”(ROSE “Dame Jeanne”)

CHAMPAGNE HENRI GIRAUD

アンリ・ジローでは見学も試飲も無料なので、試飲は上の2本で終わりだと勝手に思っていましたが、3本目もありました。

3本目の試飲はロゼダムジャンヌです。こちらの写真の一番右のボトルです。

セパージュはピノ・ノワール60%&シャルドネ40%で、ピノ・ノワールは先ほどのカーブで見学したトスカーナ製テラコッタで作られたアンフォラで熟成させています。

チョコレートやブラックフルーツを思わせる香りはとてもパワフル。ちょっとした赤ワインのような香りです。すごく樽が利いていて、ベリー系のコンフィチュールのよう。とても美味しいロゼです。「フォワグラやキングサーモンと上手くマリアージュします」と教えてもらいました。

インフォメーション

CHAMPAGNE GIRAUD
公式ホームページ:https://www.champagne-giraud.com/en/
住所:71 Boulevard Charles de Gaulle – 51160 Aÿ Champagne – FRANCE